開発者インタビュー
第3回 未来を描く光:
ASKA3Dが拓く新しい日常
株式会社アスカネット空中ディスプレイ開発者
大坪 誠
Otsubo Makoto
様々な分野に応用可能なASKA3D
前回のインタビューでは、ASKA3D商品化への道のりについて伺いました。
既に様々な分野・用途で導入の進んでいるASKA3Dですが、開発者としてASKA3Dが今後特に大きな変化をもたらすと思う分野にはどんなものがあるのでしょうか。
ASKA3Dの技術は、大きく分けて3つの分野で価値ある変化をもたらすと考えています。
1つ目は非接触分野です。コロナ禍の注目キーワードとなった「非接触」ですが、非接触用途でのASKA3Dは自動車業界やコンビニエンスストア業界など、様々な分野・業界で研究が進みました。将来的に非接触製品が無くてはならないものとして市場に受け入れられる時期が来ると考えています。
例えば医療の分野です。手術中のデータ入力における非接触デバイスのニーズは十分顕在化しているのですが、ミスの許されない医療機器認定にはセンサー技術やUIの進化が必要という一面もあります。同様に工業分野でも手袋や手が汚れた環境でのデータ入力がありますので、工場内のオペレーター業務では防汚・防塵とタッチパネル操作を両立することが可能になります。
物理的な接触を伴わないタッチパネルという側面で言えば、深海などの水中や宇宙空間など、極限の環境でのデバイス操作にも応用できますね。
中国交通銀行に設置された空中ディスプレイ
確かに非接触はコロナ禍における大きなキーワードとなりましたね。非接触のタッチパネルが「当たり前」の世の中になることで、次のパンデミックを防ぐことにも繋がりそうです。
空中映像というASKA3Dのもたらす現象に着目すると、エンターテイメントも相性が良さそうですね。
おっしゃるとおり、2つ目は娯楽の分野におけるASKA3Dです。
昨今エンターテイメントの世界では「体験価値=UX」が重要視されますが、ASKA3Dの空中映像は、様々な新しい体験価値を提供します。
一例ではありますが、芸能人の握手会にASKA3Dを導入すれば、体に触れることなくファンとの交流が可能です。
動物園の猛獣や猛毒生物も、空中映像として投影すれば、より間近で観察し触れることができます。
”見る”や”触れる”というオーソドックスな体験が、新しいものに生まれ変わりますね。
話題のVR=バーチャルリアリティなどはいかがでしょうか。
近年盛り上がりを見せるVRやARの分野でも、ASKA3Dは素晴らしい可能性を秘めています。現在主流であるVRゴーグルは、両目に2つの画像を見せる”両眼視差”という方式を採用しています。これは裸眼で見える自然光の世界とは異なり、人間の目と脳を誤魔化して作る、言ってしまえば不自然な世界です。
空中結像を実現するASKA3Dを利用することで、自然光と同じ拡散光を使ったVR・ARゴーグルが作れるかもしれません。
VR・AR分野での応用として研究が進めば、VR酔いや違和感を完全にゼロにした新しい体験を提供できるはずです。
ASKA3Dが最新技術をサポートする「正解」になるかもしれませんね。
3つ目は既存の光学デバイスと組み合わせた使い道です。
今注目いただいている非接触・空中ディスプレイとしての利用用途以外にも、ASKA3Dを既存の光学デバイスと組み合わせることで様々な可能性が広がります。ASKA3Dの発明は、凸レンズの無い世界に凸レンズを発明したようなものです。凸レンズは凹レンズを産み、その後様々な組み合わせ・用途が発見されました。ASKA3Dをレンズや光ファイバー、光学センサー等と組み合わせることは、無限の可能性を秘めていると言えます。
新たな光学デバイスとして
既存の光学デバイスとの組み合わせ、非常に興味深いですね。具体的にはどのような応用が考えられるのでしょうか。
ここからのお話は未だ思考実験の粋を出ないものも含みますが、様々な応用が考えられます。
例えば光通信分野において、光ケーブルを中間接続する際にASKA3Dの空中結像技術を利用することで、理論的には光ケーブル内の光線を多重化できるはずです。実現すれば伝送容量が圧倒的に増加します。光ファイバー内の複数の独立した光路をASKA3Dで三次元的に利用するデータ伝送技術は、次世代通信の新たなテーマの1つになるかもしれません。ASKA3Dの空中結像の原理が「重ね合わせ」を実現する鍵となります。
普段人間の目に触れないところにも、光学デバイスとしてのASKA3Dに活躍の場がありそうですね。
セキュリティの分野では、「暗証番号の入力内容が他者から見られない」という空中結像の視野角の特性を利用した用途では既に実現していますが、全く別のアプローチも考えられます。
例えばバーコードやQRコードなどのように、情報を二次元的にコード化したものは様々存在します。これらのコードを三次元化したものをセキュリティキーとして生成し、ASKA3Dを用いたホログラフィック通信でリアルタイムに送受信することが出来れば、ハッカーの関与が非常に困難な堅牢なセキュリティ技術となるはずです。
視野角によるセキュリティではなく、データそのものを三次元化するという発想ですね。
セキュリティ以外にも、物体を置くと空中結像が立体として結像するASKA3Dの特性を活かした、新しい三次元計測システムも考えられます。これは人間の目検での確認には向かないものの、計測の分野における三次元の正確な読み取りに使えます。この立体的な結像は、半透明な物質や生物を三次元的に計測・観察できる新しい立体顕微鏡に繋がるかもしれません。他にも結像光学フィルタとして、画像を伝播する際のノイズ検知・除去にも応用できます。
教育への貢献について
教育の分野において、ASKA3Dはどのように利用される可能性がありますか
小学校の理科ではレンズやプリズム、顕微鏡のような従来の光学デバイスを使った学習を行います。
凹凸レンズやピンホールカメラを使った実験の延長線としてASKA3Dをご利用いただければ、光の性質を学ぶことや、科学全体へ興味を持ってもらうお手伝いができそうです。
もちろん先程お話した新しい顕微鏡、立体顕微鏡が実現すれば、被写界深度の制限を受けずに物質の深部まで、ピントのあった状態で観察することができますね。
確かに幼少期に触れる光学デバイスは、科学の基本的な知識として定着しますね。
面白いと感じてくれた子どもたちが中学生、高校生と成長の過程でさらに仕組みや可能性に興味を持ち、ASKA3Dに触れることが、科学・生物・物理など新たな学問への興味につながれば開発者としてとても嬉しいです。
ASKA3Dの展望と、その先の未来
大坪さんはASKA3Dの開発者として、発案から実現、商品化まで数多くの課題と困難をチームの力で克服しながら現在の形にたどり着かれたと思います。今後のASKA3Dへの展望をお聞かせください。
ASKA3Dは既に実現した、夢物語ではない技術・光学デバイスです。短期的には今回お話したような「空中結像を必要としている様々な分野」で応用され、やがては日常生活では当たり前と言われる製品になることを期待し、今後も研究を重ねて参ります。
中長期的には他の光学デバイスと組み合わせた新しい光学装置として発展し、日常生活の役に立つ様々な製品に応用され、社会がより良い方向へ変化する”触媒”としてご利用いただきたいと思っています。
その先にはどんな未来を想像されますか
”ホログラム”という言葉の語源は、ホロ(完全)グラム(写真)です。 真に何もない空間に、まるで幽霊のように。 SF映画で見る完璧なホログラム技術は、人類の”光に対する理解”が今より一段進まないと実現しません。 「それでもいつかは」とASKA3Dの開発者として、また一人の研究者として日々考えております。
ありがとうございました。
今回は未実現のアイディアや思考実験も含め、ASKA3Dがどのうような新しい日常を切り拓くかについてお話をお聞かせいただきました。
空中映像・非接触・空中ディスプレイ以外の用途や研究についても、お気軽にアスカネットまでご相談ください。